AIを優秀な部下に近づける9つの力

中田 和行 / 2026年7月30日

UX / UI のデザインに強いアプリ・Webシステムの開発と、企業へのAI導入を支援する
N's Creates (エヌズクリエイツ) 株式会社 の 中田和行@神戸のデザイナ社長 (facebook / X ) です。

ChatGPTやClaudeなどのAIを使っていて、

  • 指示どおりに動かない
  • 勝手な解釈をする
  • 余計な変更をする
  • 同じ間違いを繰り返す
  • もっともらしい嘘をつく
  • 途中までは良いのに、最後に崩れる

こうした不満を感じることは、確かにあると思います。

もちろん、AI自体の性能に問題があることもあります。使っているツールの品質が悪いこともあります。

ただ、AIは自律的に動く道具です。それでも、今はまだ「道具」です。

ハサミでうまく切れなかったとき、「このハサミは頭が悪い」とはあまり言いません。

考えるのは、次のようなことだと思います。

  • 切れ味が悪いのか
  • 用途に合ったハサミなのか
  • 持ち方や切り方は正しいのか
  • そもそもハサミで切るべきものなのか

AIも同じです。「AIは賢いか、アホか」という評価だけで終わらせない方がいいと思います。どの道具を、どの場面で、どう使ったのか。ここを見る必要があります。これが、まず大事な前提です。

車も同じです。同じ車でも、運転する人によって事故率は変わります。どこへ向かうかを決めるのも、運転する人です。パソコンも同じです。机に置いただけでは、何も生まれません。何に使うか。仕事にどう組み込むか。それが決まって、初めて力を発揮します。AIも、この延長線上にあると思います。

「使う側が悪い」で終わらせてもいけない

AIを道具として考えるからといって、すべてを使う人の責任にするのも違います。

ハサミにも、いろいろな違いがあります。切れ味、耐久性、安全性、右利き左利きへの向き不向き、紙用・布用・料理用といった用途です。

AIにも、同じように特性があります。

  • 考えることが得意なモデル
  • 作業が速いモデル
  • 長い文章や資料を一度に読めるモデル
  • 指示に忠実なモデル
  • 調べ物が得意なモデル
  • 画像や画面を理解するのが得意なモデル
  • 長い作業を任せられるモデル

だから必要なのは、AIを無条件に信じることではありません。使えないと切り捨てることでもありません。得意なことと苦手なことをよく見て、場面に合わせて使い分けることだと思います。

AIは部下ではない。でも近づけられる

AIを人間の部下として見ると、不満が生まれやすくなります。「なぜ前に言ったことを覚えていないのか」「なぜそこまで説明しないと分からないのか」「なぜ勝手なことをしたのか」といったことです。

ただ、AIは人間とは違います。会社の事情を長く経験しているわけではありません。暗黙のルールを自然に理解しているわけでもありません。相手の表情や空気を読んでいるわけでもありません。失敗の責任を負っているわけでもありません。仕事の目的を、自分なりに理解しているわけでもありません。

AIを作っているAnthropicも、こう勧めています。エージェント(自律的に動くAI)を作るときは、いきなり複雑にしない方がいい。まず単純で、組み合わせやすい形から始めた方がいい、と。

同じ記事では、AIに仕事を任せて効果が出やすい条件も整理しています。成功の基準がはっきりしている仕事。途中で軌道修正できる仕事。人間がきちんと見ている仕事です。

つまり、AIは自律的に動いているように見えます。ただ、目的や責任を、人間と同じレベルでは理解していません。

ただし、ここで終わらせる必要はありません。環境と仕事の渡し方を整えれば、AIを「優秀な部下」に近づけることはできます。

これは相性でも運でもありません。やり方があります。何を渡すか。何を先に決めておくか。どこを確認するか。これから述べる9つの力や、情報の渡し方、完了条件の決め方は、そのための具体的な方法です。

私自身、この「AIを優秀な部下に近づけるための環境づくり」を、仕事として支援しています。

問題はAIではなく、仕事の渡し方

例えば、AIに「このシステムをいい感じに直して」とお願いしたとします。期待した結果にならないことがあります。

これは、事務や営業の仕事でも同じです。「この資料をいい感じにまとめて」と頼んで、思っていたものと違う仕上がりになる。よくあることだと思います。

このとき、足りていない可能性があるのは、次のような情報です。

  • 何が問題なのか
  • 誰にとって問題なのか
  • どこを変えてよいのか
  • 変えてはいけない部分はどこか
  • どうなれば完了なのか
  • どうやって確認すればよいのか
  • 迷ったときにどう判断するのか

Martin Fowlerのサイトでは、AIに良い結果を出させるための工夫を紹介しています。AIが見る情報を、狙って整えることです。これを「コンテキストエンジニアリング(AIに渡す情報を整えること)」と呼んでいます。

これは、長い指示文を書くことではありません。

目的、決まっている方針、過去の判断、社内のルール、参考になる例、確認方法、やってはいけないこと。こうした情報を、AIが必要なときに見られる状態にしておくことです。

これからは、指示の出し方のうまさだけでは足りません。AIが正しく仕事をするための環境を整える力。これが重要になると思います。

AIは、今あるものを大きくする

Googleが2025年に発表した調査があります。約5,000人の技術者を対象にした調査です。AIはチームを直すのではない。すでにあるものを大きくする、と報告しています。

良いチームは、AIによってさらに速く、効率的になります。

一方で、こんなチームもあります。仕事の内容があいまい。責任の所在がはっきりしない。確認の手順が足りない。社内の仕組みが複雑。レビューが機能していない。フィードバックが遅い。こうしたチームでは、その問題もAIによって大きくなります。

同じ調査では、こんなこともわかりました。AIの活用は、仕事の量や成果には良い関係があります。一方で、出来上がったものの安定性には、まだ良い関係が見えていません。

確認の仕組みが弱い。変更履歴を残す仕組みが弱い。素早いフィードバックが弱い。そんな状態で作る量だけが増えると、不具合や混乱も増えやすい、ということです。

つまり、AI導入とは、便利な道具を契約することではありません。仕事の仕組みを整えることだと思います。

これから学ぶべきこと

では、AI時代に私たちは何を学ぶべきなのか。個人的には、次の9つだと考えています。

1. 何が問題かを決める力

つまり、何を、なぜやるべきかを決める力です。AIは、与えられた問題を解くことが得意になっています。一方で、そもそも何が問題なのか。誰の問題なのか。解決する価値があるのか。本当にやる必要があるのか。これを決めるのは、今も人間の役割です。「どうやるか」だけでなく、「何を、なぜやるのか」を考える力が必要です。

2. 商売の仕組みが分かる力

つまり、その仕事やサービスが、どうやってお金になるのかを分かる力です。何を作るか決める前の、土台になる力です。AIが上手に作れるようになるほど、「そもそも何を作るべきか」を決める力の価値が上がります。

誰の、どんな困りごとか
お客さんが誰なのか。何に困っているのか。いくら払う価値があると感じているのか。ここを分かっていないと、良いものは作れません。

お金がどこから、どう入るか
誰が払うのか。いつ払うのか。一度きりなのか、続くのか。ここが曖昧だと、作った後で困ります。

いくらかかって、いくら残るか
かかる時間と費用。そして、残る利益。ここが大事です。「作れること」と「儲かること」は別の話です。

なぜ自分たちがやるのか
他社と何が違うのか。AIで誰でも作れるようになったとき、何が残るのか。ここを考えておく必要があります。

やらない判断
作らない。今はやらない。この判断も、大事な仕事の一つです。

AIは、この5つを代わりに決めてはくれません。決めるのは、いつも人間です。

3. 使う人の気持ちと体験が分かる力

つまり、使う人がどう感じるかを分かる力です。

  • 誰が使うのか。どんな場面で、どんな気持ちで触るのか
  • どこで迷うのか。どこで手が止まるのか。どこでやめてしまうのか
  • なぜその行動をとるのか。言われた通りに作っても、使われないことがあります
  • 「言われたこと」と「本当に困っていること」は、別のことがよくあります

AIは、きれいな画面や文章を作れます。ただ、「使う人がどう感じるか」を確かめるのは、人の仕事です。私自身、長く画面を作る仕事をしてきて、この感覚が一番大事だと感じています。

4. 仕事を小さく分ける力

つまり、大きな仕事を、任せられる大きさに切り分ける力です。AIに大きな仕事をまるごと渡すほど、途中で方向を間違えたときの被害も大きくなります。そのため、次のように分けます。調べる。方針を決める。下書きを作る。確認する。仕上げる。それぞれに「ここまでできたら完了」という基準を決めておきます。

AIが長い作業を任せられる能力は、急速に上がっています。ただ、AIの作業時間を測っている研究機関METRの評価も、こんな形で測っています。「どのくらいの時間の作業を、どのくらいの確率で完了できるか」。作業が長く複雑になるほど、成功率は下がります。だから、仕事の大きさを管理する人間の役割は、まだ残ります。

5. 道具を選ぶ力

つまり、仕事ごとに合った道具を選ぶ力です。どの仕事にも同じAIを使うのは、良くありません。アイデア出し、文章の整理、資料作成、調べ物、画像制作、データの分析、確認、長時間の作業。目的に応じて使い分ける必要があります。さらに、AIに任せるか。これまでのやり方を使うか。人が直接やるか。AIと人で分担するか。この選択も必要です。AIを使うこと自体が目的になった瞬間、道具に使われ始めます。ここは意識した方がいいと思います。

6. AIに渡す情報を整える力

つまり、AIに必要な情報を、必要な形で渡す力です。具体的には、目的、背景、制約、具体例、参考資料、これまでのルール、過去の判断、完了の基準。これらを整理します。

これからは、作業を始める前に準備が必要です。AIが判断できる程度に、仕事のやり方や会社のルールを言葉にして書き出しておくことです。これは、AIのためだけではありません。ルールが言葉になっていれば、新しく入ったメンバーの理解にも役立ちます。チーム内の認識合わせにも役立ちます。

7. 確かめる力

つまり、AIの答えをそのまま信じず、確かめる力です。AIの出力は、「自然に見えること」と「正しいこと」が一致しません。そのため、確かめる作業が必要です。根拠を確認する。元の資料に当たる。作った物を確認する。動作を確認する。別のやり方で確かめる。別のAIに見てもらう。実際の現場で試す。

作った資料を、誰がどうチェックするか。これも同じ考え方です。

AIを作っているAnthropicも、こう重視しています。AIやツールを良くするには、感覚的な評価だけでは足りません。評価するための課題や基準を作り、続けて測ることが大事です。これからは、答えを作れる人より、答えの正しさを判断できる人の価値が上がると思います。

8. 自分の専門と基礎の知識

つまり、任せる仕事の中身を分かっている力です。AIがコードを書くなら、プログラミングを知らなくていい。AIが文章を書くなら、文章力は不要。AIがデザインするなら、デザインを学ばなくていい。そういう話ではありません。

基礎知識がなければ、こんなことが起きます。良いものと悪いものを区別できない。AIの間違いに気づけない。適切な指示を出せない。例外に対応できない。結果に責任を持てない。

AIによって、作業を始めるハードルは下がります。一方で、最終的な品質を判断するための専門性は、むしろ重要になると考えています。

9. 結果に責任を持つ力

つまり、最後は人が決め、人が背負う力です。AIが作ったからといって、責任をAIに渡すことはできません。間違い。情報漏えい。権利の侵害。誤った判断。お客様への不利益。これらの責任です。

AIは提案や作業をしてくれます。ただ、それを採用するかどうかを決めるのは人間です。

これからは、自分がすべてを直接やる力だけでは足りません。何をAIに任せたか。なぜその結果を採用したか。どう確かめたか。どのリスクを受け入れたか。これを説明できることが重要になります。

AI時代の学び方も変わる

これまでは、こんな順番が一般的でした。学ぶ。覚える。仕事で使う。

これからは、こんなサイクルが増えると思います。AIを使ってやってみる。うまくいかなかった原因を考える。必要な知識を学ぶ。環境や指示を良くする。もう一度試す。

すべてを学んでからAIを使うのではありません。AIを使う中で、自分に足りない知識を見つける。これも、新しい学び方の一つです。

チームとして大切にしたいこと

AIを使って失敗したとき、「AIがアホだった」で終わらせたくありません。次のところまで振り返る文化を作りたいと思います。

  • どのAIを使ったか
  • どんな仕事を任せたか
  • 必要な情報は渡せていたか
  • 仕事の大きさは適切だったか
  • 完了の基準は明確だったか
  • 途中で確認する仕組みはあったか
  • 出来上がったものをどう確かめたか
  • 次回は何を変えるか

一方で、無理にAIを使う必要もありません。人がやった方が速い仕事もあります。これまでのやり方の方が確実な仕事もあります。AIに任せるにはリスクが高い仕事もあります。

大切なのは、AIをたくさん使うことではありません。適切に使って、良い成果を出すことです。

最後に

AI時代に必要なのは、AIの回答をありがたがる姿勢ではないと思います。AIの間違いを笑う姿勢でもありません。

必要なのは、次のことです。道具の特性を理解する。適切な仕事を渡す。結果を確かめる。その結果に、人間が責任を持つ。

AIの性能は、今後も上がります。任せられる範囲も広がっていくと思います。だからこそ、私たちが学ぶべきことは、特定のAIの操作方法だけではありません。

  • 何が問題かを決める力
  • 商売の仕組みが分かる力
  • 使う人の気持ちと体験が分かる力
  • 仕事を小さく分ける力
  • 道具を選ぶ力
  • AIに渡す情報を整える力
  • 確かめる力
  • 自分の専門と基礎の知識
  • 結果に責任を持つ力

こうした力を身につけること。これが、これからの時代の「AIを使う力」だと思います。

もし自社でこれをどう整えるか、という相談は日々受けています。

AIに仕事を奪われるかどうかではありません。AIを含めて仕事を設計できる人になれるか。ここが、これからの大きな分かれ目になるのではないでしょうか。

参考にした資料

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