UXの次はAX——AIが”ユーザー”になる時代に、私がやっていること

中田 和行 / 2026年4月15日

UX / UI のデザインに強いアプリ・Webシステムの開発と、企業へのAI導入を支援する
N's Creates (エヌズクリエイツ) 株式会社 の 中田和行@神戸のデザイナ社長 (facebook / X ) です。


「あなたのソフトウェアやサービス、AIが使いやすくなっていますか?」

この問いを投げられたとき、どう感じましたか?

ほとんどの人にとって、ソフトウェアの「使いやすさ」といえば人間のための話です。ボタンの位置、フォントのサイズ、操作の流れ——これらは全部、人間が使うことを前提に設計されています。

でも今、その前提が静かに崩れ始めています。

UXの次に来るもの——AXという概念

2025年初頭、Netlify(米国のWebインフラ企業)のCEO、Matt Biilmannが一つの概念を提唱しました。

AX(Agent Experience)——「AIエージェントがプロダクトやプラットフォームを”使う”ときの体験設計」です。

1990年代にDon NormanがUX(ユーザー体験)という言葉を世に広めたとき、「プロダクトは人間にとって使いやすくあるべきだ」という考え方が設計の中心になりました。AXはそれを意識的に踏まえた上で、「次のユーザーはAIかもしれない」という現実に向き合った概念です。

なぜ今これが問題になっているか。

AIエージェントは、人間向けに設計されたUIをうまく扱えないからです。ビジュアルのフィードバック、マウスクリック、「次のステップ」を促す文言——こうした設計は人間の注意と感覚を前提にしています。AIエージェントがソフトウェアを使うとき、それらは「ノイズ」か「障害」になることがあります。

現場の数字——エージェントはまだ本番稼働できていない

Belitsoft社とFuturum Group社の調査によると、企業が「やろうとしていたエージェント活用」のうち実際に本番稼働まで至ったのはわずか11%です。

一方でLangChainが2025年末に実施した「State of AI Agents」調査では、57.3%の組織がすでに本番でエージェントを稼働させているとも答えています。

この2つの数字に矛盾があるように見えますが、実はここに本質があります。「試してみた」と「本当に機能している」の間には、大きな溝があるということです。

その溝を埋めるものが、体験設計——AXの視点です。

MCPとCLIが「AIの新しいUI」になっている

少し具体的な話をします。

最近、MCP(Model Context Protocol)やCLI(コマンドラインインターフェース)を通じて使えるサービスが急速に増えています。Notion、HubSpot、Google Analytics、X(旧Twitter)——これらがAPIを通じてAIエージェントと直接つながるようになっています。

人間から見ると、CLIは取っ付きにくいインターフェースかもしれません。ボタンも、色も、わかりやすいナビゲーションもありません。

でもAIエージェントにとっては、これが「使いやすいUI」です。

GUIで視覚的に操作する必要がない。必要な情報を構造的に受け取り、処理して、次のアクションを実行できる。MCPが普及していくことは、「AIエージェントのための体験設計」が標準化されていく過程と言えます。

私が実感しているのは、MCP対応のサービスを組み合わせることで、エージェントの動ける範囲が格段に広がるということです。同時に、「どのツールを接続するか」「どの順番で情報を渡すか」という設計自体が、AIの体験品質を左右します。

私がやっていること——エージェントと1on1

私は10名のメンバーを抱える会社の代表として、デザインチームとは月1回の1on1を、エンジニアとも個別に対話の場を設けています。「人との会話を大切にする」というのが自分のスタイルです。

このマネジメントの哲学を、AIエージェントとの関係にも持ち込みました。

通常、AIとの対話は「こちらから質問し、答えをもらう」という形が多いと思います。でも私がやったのはその逆——エージェントから私に質問してもらうという1on1です。

「今やりたいことを教えてください」と言われ、頭に浮かぶままに答えていきました。その問いと対話を繰り返していく中で、自分でも整理できていなかった優先順位が見えてきました。

「情報発信を先に走らせる」「別事業のAI教材制作を並行させる」——こうした判断が、問いに答えながら自然に出てきたんです。

コーチングを受けているような感覚とも少し違います。エージェントは「引き出す」だけでなく、「提案する」「一緒に実行する」ことまでやってくれます。人間の1on1と違うのは、翌日もその記録を参照しながら話が続けられる点です。

一発でOKにならない——それが現実であり、正しい姿勢

AIエージェントの世界で一つだけ強調したいことがあります。

最初から完璧には動かない。検証と確認のループが必須です。

実際に経験した話をします。エージェントから「できました」という報告を受けても、実際に確認してみると途中で止まっていたり、意図通りに動いていなかったりすることがありました。

これはエージェントの問題というより、体験設計の問題です。「動いた」という報告を鵜呑みにせず、別の目線で実際に動作を確認する——これがAXの実践で最も大事なことの一つだと感じています。

これはソフトウェア開発のテストと同じ考え方です。システム開発では、作った人が自分でテストするのではなく、別の人間がテストする。それと同じように、あるエージェントの成果物を別のエージェントが確認する仕組みを作ることが、品質を担保する鍵になります。

「AIは自律的に動いてくれる」は正しい。でも「AIが言うことを信頼していい」は、まだ設計次第です。その設計をどこまで意識できるかが、AIエージェントをうまく活用できる組織とそうでない組織を分けると思っています。

先駆者の条件は「やっていること」

AXという言葉は、まだ多くの人に届いていません。

でも概念を知っているかどうかより大事なのは、すでにそれを実践しているかどうかです。

MCPでツールを接続し、エージェントと1on1をして、テストを繰り返す。そのプロセス自体が、AIエージェント時代の体験設計に関する知見になります。

「何か新しいことが始まっている」と感じていながら、動けていない時間が一番もったいない。試して、失敗して、改善する。そのサイクルを早く回し始めた人が、次の時代に強みを持つと思っています。

あなたのプロダクト・サービス・業務は、AIエージェントにとって使いやすいものになっていますか?

その問いを持ち続けることが、これからの体験設計の出発点です。


引用・参照
・AX(Agent Experience)の提唱: Matt Biilmann(Netlify CEO, 2025年)
・Belitsoft / Futurum Group「エージェント活用の本番稼働率:11%」
・LangChain “State of AI Agents” 調査(2025年末):57.3%の組織が本番稼働

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